鳥取倉吉温泉巡り


やや年寄り臭い話ではあるが、今年のGW連休も(実は恒例だったりする)温泉旅行へ行ってきた。

いままでは中京地区へ行くことが多かったのだが、今回は趣を変え、友人二名を巻き込んで山陰方面を攻めてみることにした。みんな貧乏なので、いつもの通りプランは安上がり仕様で組む。交通手段は、鈍行列車と路線バスが原則である。名の通った豪華な温泉旅館など、軒先の前を通過するためにあるようなものだ。夜は野暮ったいビジネスホテルに素泊まりし、風呂は外湯を利用する。行き当たりばったりのケチケチ温泉旅行も、それはそれで悪いものではない。

ゾーン券 切符は、周遊券を使用した。周遊券とは、「ゆき券」「ゾーン券」「かえり券」の三点セットで発行されるセミオーダー切符のことで、行程が一定の条件を満たしたときに購入できるものだ(詳細は時刻表を参照されたい)。「ゆき券」と「かえり券」は、通常運賃の2割引(学割を併用すれば3割引)。ゾーン券(右の写真)は、一定区間の列車やバスが乗り降り自由となる。今回用いたものは、「鳥取・倉吉ゾーン」だ。

が、みどりの窓口の担当者には、周遊券といったやや特殊な切符の発券方法を知らない者もいる。前日に行程表を持って京都駅のみどりの窓口(八条口のところにあるJR東海の窓口)へ出向いたのだが、不運にも当たった担当者が何も知らない奴だった。やり直したり、上司と相談したり..しかし、目的の切符は出てこない。結局、詳しい人が他の窓口から出てきて解決したのだが、目的の切符が発行されるまでに30分ぐらい要した。わざと聞こえるように嫌味を囁きながら、待ち時間を誤魔化すわたし。嫌な客だ。



1日目の5月1日は、こんな予定で行くことにした。城崎で途中下車して、城崎温泉に立ち寄るのだ。

乗車駅乗車時刻行先下車駅下車時刻備考
京都09:04福知山福知山11:02
福知山11:04城崎城崎12:41城崎温泉
城崎16:07浜坂浜坂17:03
浜坂17:30鳥取鳥取18:17

113系当日の朝、京都駅の山陰本線(嵯峨野線)ホームに集合する。乗り込んだ湘南色のポンコツ電車は、人間工学的な配慮が全く感じられない直角シートの113系だ。早く廃車にしろよと言いたくなるような電車だが、JR西日本の方針として、使える電車は内装だけ改装して、いつまでも走らせるつもりであるらしい。山陰本線の京都−亀岡間は、渓谷の景色が美しい。紅葉が美しい秋口は、旧山陰本線を利用した「嵯峨野観光鉄道」に乗ってみると良いだろう。

こうして揺られること約2時間、ケツも痛くなってきたところで終点の福知山に到着する。ここで、また同じような気怠い113系の電車(右の写真は折り返しの同型車)に乗り換える。流石にここまで来ると、乗客も疎らだ。居眠りなどを間に挟んで、昼過ぎに城崎に到着、城崎温泉で湯を堪能する。城崎温泉には外湯が多く、貧乏人には有り難い。15時開場の浴場が多く、まだ営業していないところもあったが、朝からやっているところも何件かあったので、そのうちの一軒を利用した。嗚呼、気持ちが良いねえ。身体に溜まった毒が洗われるようだ。これだから、温泉は止められない。

キハ47 城崎温泉で身体をほぐしたところで、この日の最終目的地である鳥取へと向かう。ここまでは電車で来たが、山陰本線の城崎から以西は、非電化区間だ。乗る列車は、ディーゼル気動車のキハ47、浜坂ゆき。三両編成のうち、確か一両がマスカット色に白ストライプ。残りの二両は朱色で、何故か扉の窓の部分だけがマスカット色に塗ってある。よせば良いのに、どうしてこんなセンスの無い「ワンポイント」を入れてみるのかね?

日本海沿いを走る山陰本線(城崎−浜坂間)からの車窓は非常に美しい。僅かな平地を除けば海の際まで山が迫るこの場所に独特な地形が、鉄路からの眺めにも唯一無二のものを与えてくれるのだ。特に、鎧を出発した列車が餘部に差し掛かる直前に位置する餘部鉄橋からの眺めは、まさに絶景である。トンネルが幾重にも続く山間の区間を抜けたかと思うと、異様に高い橋梁の下には三角州のような申し訳程度の平地に犇々と立ち並ぶ民家の瓦屋根、そして昼下がりの陽光を受けた小波が微細な光芒を放ち、黄金色に煌めく海原が現れる。まったく、下手な文学的解説を加えずに済むよう、次に行ったときはちゃんと写真を撮ろう。

浜坂で乗り換えて小一時間、鳥取に着いた我々は、驚きを隠せない面持ちで列車を降りた。高架化された立派な駅を出ると、眼前には予想以上に栄えた都市が広がっている。日本で最も忘れ去られた土地、山陰。そこに位置する鳥取市など、所詮は大した街ではないだろうと侮ってかかっていた大変失礼な考えを、ここに来て改めさせられることとなった。予約してあった鳥取市内のホテルにチェックインしたあと、夕食を食べに行く。駅前の商店街に食事処兼居酒屋みたいな店を見付けて、「海鮮丼」を注文した。暫くして出てきた実物の「海鮮丼」は、見本よりも明らかに豪華に盛ってある。上辺は茗荷の千切りばかりだが、よく見ると茗荷の下には大量の刺身。「うわー、これすごー」などと貧乏くさい感嘆を上げながら平らげ、初日は大満足で終わった。



2日目の5月2日は、細かい予定は決めないままホテルをチェックアウトした。

鳥取砂丘 取り敢えず、鳥取に来たのだから鳥取砂丘へ行ってみる。鳥取砂丘までは路線バスで行くのだが、これは周遊券の料金に含まれているから追加費用はかからない。バスを降りると、一面に広がる...砂。感想を述べろと言われても、そうとしか言えない。正確を期すならば、砂の向こうには荒海。そして何故か、記念写真撮影用の駱駝がスタンバっていた。いくら砂漠みたいだからといって、駱駝という安直すぎる発想には何となく苦笑してしまうものがある。

わたしが写真を撮っていると、右の写真からも分かるとおり、友人2名はすたすたと先に行ってしまわれた。そこで駆け足で追いつこうとするのだが、さらさらの砂の上は意外と歩きにくく、これが意外と疲れる。走れば走ったで、靴の中に砂が入ってくるから気持ちが悪い。ここは、長靴かサンダルで来たほうが良いらしい。

鳥取砂丘 鳥取砂丘って「砂」があるだけでしょ? と思っていたが、こうして見ると、確かに「丘」になっている。砂地で、いかにも登りにくそうで実際に登りにくいこの丘を越えると、それだけで結構良い運動になる。そして、丘の頂上まで行くと、その向こうは海。早い話が、砂浜のトノサマみたいな場所って感じで、逆に、「見渡す限りの砂漠地帯」を期待していくと、「これだけ?」と、がっかりするかも知れない。

どこかで見た風景だと思ったら、暴れん坊将軍のオープニングですな。
ちゃーん、ちゃちゃちゃーん! と、馬が疾走するあのシーン。

鳥取砂丘 丘の、海とは反対側のふもと付近には水が溜まっていて、小さな池みたいなものが出来ている。無数のガキどもが、丘を滑り降りてきて池の中に突っ込むという、ややアクロバティックな遊びを披露していた。

こういうアングルで写真を撮ると、鳥取砂丘は何だか凄く広い感じがする。しかし、どういうわけか砂丘は年々小さくなっているらしい。だからといって、何か困るようなことがあるかと言われれば、特に無いような気もするけれど。

ほかにも何枚か写真を撮ったので、腕の悪さでも宣伝しておこう。

砂丘+日本海+駟馳山砂丘+日本海砂の模様

周遊区間 砂丘を彷徨いたあと、誰もがやるように靴の中に堆積した砂を出して吉岡温泉へと向かった。初めて耳にする温泉だが、右図のとおり周遊券にも出ている温泉だから大丈夫に違いない。胸を期待で一杯にして、路線バスに乗り込んだ。が、どうも様子がおかしい。バスは鳥取の市街地を外れて住宅街のような所を抜けてゆき、不法投棄するならここだ、って感じの場所を通過したかと思うと、急に周りの景色が寂れてくる。

徐々にではあるが確実に、不安へとメタモルフォーゼを続ける期待という名の虚構。とうとう山間の寂しくて涙が出そうな場所まで連れて行かれてバスを降りたときには、不安は単なる諦めに変わっていた。

吉岡温泉 だが、観光案内所で貰ってきた温泉案内によれば、現場とは裏腹に、小綺麗な温泉街がここに存在することになっている。いや、そうであって欲しい。最後の望みを奇跡に賭け、温泉街と思しき場所にやってきた我々のツラは、全員一致で「なんだここは!」という驚きの表情で引きつっていたに違いない。寂れすぎていて、文字通り何もないのである。

でも、来たからには仕方がない。町営温泉会館だったかで風呂に入ることにした。どうみても潰れかけの銭湯だが、これでも立派な温泉なのだと自分自身に言い聞かせて恐る恐ると中へと入ってみれば、無人と見間違う薄暗い受付にいつ死んでもおかしくないような爺さんが一人。自然と烏の行水よりも速くなってしまう入浴を終えて休憩所に出てくると、マッサージ椅子とお友達している老婆がこっちを睨んでくる。三流ドラマでも今時使わないようなお約束通りのシチュエーションに愕然としながら、風のようにその場を退散した。

ゆっくりするどころか、折り返しのバスでそそくさと鳥取駅へ戻ったのは言うまでもない。なかった事にしたい想い出の一ページは、こうして幕を閉じた。

キハ181 今日の最終目的地は、倉吉である。鳥取駅へ付くと、ちょうど特急くにびき1号が出発する時刻であった。周遊券のゾーン券は、特急列車の自由席にも乗れるから、こいつで倉吉まで向かうことにした。ガラガラガラガラと、いかにも古代のディーゼルらしい轟音を立てながら、どす黒く地球に悪そうな排ガスを屋根の煙突から勢いよく吹き上げ、空気を積んで発車するガラガラのキハ181。181が嫌いなわけではないが、特急がこんなポンコツ車両では、乗る客も乗らないだろう。

倉吉に予約してあったホテルに着いた我々は、本日二度目の「唖然」を経験することとなる。偉そうに「ビジネスホテル」と銘打ってあるくせに、どう過大評価してもヘボい民宿の域を出ないオンボロ宿なのだ。時間が余ったので倉吉市内の「観光地」をブラブラとしてみたが、これもぱっとしない。日が沈んできたころ、夕食に出かけたが飲食店も疎ら。ようやく見付けた焼肉屋(何故か倉吉市内にはやたらと多い)に入り、焼肉を鱈腹詰め込みながらの反省会で、明日の予定地、三朝温泉に名誉挽回を託したのであった。



3日目の5月3日早朝、ビジネスホテルを名乗るオンボロ宿を早々にチェックアウトした。

河原風呂 今回の目玉、三朝温泉へとバスで向かうのだ。泣いても笑っても、今日が最後なのである。ここがダメなら、今回の温泉巡りそのものが台無しになってしまう。同行者の誰もが、「神様、頼むからここだけはお願い」と、祈るような思いでバスに揺られていたことだろう。名の通った温泉だから間違いはないと頭では分かっていつつ、前日には吉岡温泉での苦い想い出があるから、ついつい不安が頭を過ぎってしまう。

しかし、こんなのどかな景色を見て、そんな不安は一気に吹き飛んだ。まず手始めに、観光案内所で教えて貰った外湯、「株湯」へ向かった。主に地元の人が利用していると思われるこぢんまりとした浴場であったが、これなら満足だ。しかも、運良くもこの日は温泉祭りが開催されていたらしく、入浴料は無料。よろしい、神は最後に味方するものだ。ちなみに、三朝温泉には外湯が少ない代わりに、宿泊しなくても旅館の風呂だけ利用することもできる。貧乏人には、有り難いことだ。

河原風呂 株湯でゆっくりと朝風呂に浸かって眠気を覚まし、すっかり気を良くしたところで、行きしなに渡った三朝橋の下に発見した「河原風呂」にも惹かれてしまう。温泉案内の地図にも載っているこの「河原風呂」、本当にそのまんまって感じの露天風呂だ。入浴料は、もちろん無料。これを利用しない手はない。

一応、申し訳程度の囲いはされているが、撮影ポイントである三朝橋(バス路線)からはよく見えるロケーションだ。ここへ来て「恥ずかしいから」とか何とか言い訳して入浴を躊躇ったり、タオルで前を隠しながら入浴するようでは、まだまだ半人前である。脱衣場ではフルチンを堂々と披露できてこそ、リッパなのだ。風呂の中では、水より僅かに比重の小さいと思われるチンポを潜水艦スタイルで浮かべられてこそ...いや、そんなことは誰も聞いてない。

こうして温泉を満喫し、大満足気分で三朝温泉を後にした。

帰路は、こんな行程となった。

乗車駅乗車時刻行先下車駅下車時刻備考
倉吉13:45京都上郡15:31 スーパーはくと8号
上郡15:41姫路姫路16:14
姫路16:30長浜大阪17:29新快速

最後だけは、ちょっと贅沢して特急に乗って帰ることにした。「スーパーはくと」は、JRの特急として扱われがちだけれど、実際は第三セクターの智頭急行がJRに乗り入れして運行している列車である。車両も智頭急行の所有で、鳥取−倉吉間は、乗務員も智頭急行の人間だ。赤字が当たり前の第三セクター鉄道であるにも関わらず、事実上、車両と線路のレンタル事業というボロい商売を展開する智頭急行は、珍しく黒字経営をしているという。

実際に乗ってみると「スーパーはくと」は実に快適で、女性ばかりの車掌さんは感じがいい。倉吉を出発して鳥取までの山陰本線内は、線路がヘボいため駅を通過する度に減速と加速を繰り返すが、駅間はかなり飛ばしているようだ。鳥取から因美線に入って智頭までは、線路の状態が更に悪くなるらしく、揺れも激しく速度も控えめである。しかし、智頭から智頭急行線に入れば、上郡まで飛ばす飛ばす、ガンガン飛ばす。中国山脈を遠慮なくトンネルで貫き、高架路で谷を埋めた路線にこれといった難所はない。カーブは、車体を傾けて減速無しで通過し、「こうでなくちゃ」という気持ちの良い爆走ぶりだ。



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