注水電池
ちょっと面白いものを入手したので実験してみた。
ボール紙に包まれた、この物体。実は、電池なのである。それだけならあまり話題性はないが、これはラジオゾンデに使われている、注水電池と呼ばれるものなのだそうだ。乾燥しているときは電池として機能しないが、水をぶっ掛けると、その名の如く電池になるというものだ。使うまでは決して濡らしては行けないのか、密閉された袋には乾燥剤と一緒に入っていた。
ラジオゾンデとは、高層気象観測に使われる観測機器だ。測定器などをヘリウムの入った風船で大空に目掛けて飛ばし、観測結果を無線で送信してくるものである。そう言えば子どもの頃、百貨店で貰ったヘリウムの風船の紐をうっかり離してしまい、風船を飛ばしてしまったものだ。喪失感に涙を流しながらも、その風船がどこへ飛んで行くのか知りたくて仕方が無かったことを覚えている。ひょっとすると宇宙の果てまで飛んで行くんじゃないかと思ったものだが、実はいつかは落ちてくるそうだ。
ラジオゾンデも飛ばした後は落ちるだけだそうで、多くは海に落ちてその使命を終えると聞く。しかし、風向きなどの関係によるのか、中には陸地に落ちるものもあるそうだ。道を歩いていたらラジオゾンデが落ちてきたという話を聞いたことがある。だが、ラジオゾンデは無線局であり、勝手にいじると違法無線局になってしまう。拾った人のために、「電波を出さないように」というような注意書きもしてあるらしい。
気象観測などに関しては素人なので詳しいことは知らないのでこれぐらいにするが、無情にも飛ばされて、後は見捨てられるだけのゾンデ君。使い捨てにも関わらず値段は驚くほど高価だそうで、落ちた後は環境汚染に繋がるからと、電池もややこしい薬品を使ったものは積んでは行けない。そこで、使われるのが、この注水電池なのだ。恐らく2種類の金属と、電解質と、綿ぐらいで構成されているものだと思う。
使い方は極めて簡単。水をかけるだけで始動する。
水に浸けた直後は10ボルトぐらいだが、徐々に電圧が上がっていき、結果、無負荷で19ボルト程度まで上がった。始動は遅いが、地上で水をかけて上空に昇ってから観測機器を動かすには問題ないのだろう。
負荷として豆電球を繋いでみると、点かない。電圧を見ると、19Vあった筈なのに、1V程度に下がっているではないか。電球の一つも点灯させることが出来ない根性無しかと思いきや、暫くすると薄っすらと光り始め、次第に明るく光り出す。電球は6V程度のものだが、その時の電圧は既に6Vを越えていた。切れてしまっては不味いので、直列にもう一個つなぐ。
そして、約15Vまで上がった。相変わらず始動の遅いヤツだ。この時の電流は約500mA。けっこうパワーがある。ちなみに、電池をショートさせたところ、1.5A近く流れた。
電流を流すと、泡が発生する。この泡の正体が酸素と水素であることは予想に難しくない。ためにしにライターで火を付けてみると、ぼっぼっぼっと音を立てて燃えるた。
今までは実験のために水に浸けたまま使っていたが、本来は水を掛けるだけで使われるものなのだろう。水から引き上げて、耐久テストのための負荷として、6Vの電球を2個直列に繋いだものを、さらに2個並列に繋いだものを繋げたまま放っておいた。ちょうど12V、1A程度の電流が流れている。水から引き上げた電池は暖かい。そして、気体が発生している音なのか、プチプチと泡の割れる音がする。
電池の耐久テストをしている間は暇だったので、注水電池もどきを作ってみた。
用意したのは、10円玉と1円玉と、それから水酸化ナトリウムだ。硬貨は錆びているものしかなかったので、事前に塩酸に浸けて表面をピカピカにしてある。そして、水酸化ナトリウム水溶液に硬貨を浸けると、1ボルトちょっとの電圧が発生。こういうのを幾つも並べたものが、ラジオゾンデに使われている注水電池なのだろう。
さて、そうこうしているうちに先程の耐久テストが終わった。持った時間は1時間ほど。こんなものにしては、割と長持ちする。
電球の点かなくなったこの電池。こうなればゴミであるが、捨てる前にバラすことのみが、唯一の供養法と言えよう。
ボール紙のカバーは、ホッチキスで止められて居るだけなので簡単に外れる。中身は、スチロールか何だか知らないが、厚手のフィルムで構成されている。セルの数は、写真手前に7個、奥に7個の、計14個。
カッターでフィルムを剥がすと中身に溶けてボロボロになった金属が入ってた。1層目は、マグネシウムか。侵されてない部分は艶のない金属色だが、溶けてしまった部分はどす黒い赤紫色である。その下には綿が敷いてあり、まだ何かある。
綿を剥がすと、出てきた金属は銅だろう。独特の色から、疑いようがない。綿には何らかの電解質が練り込んであるのだろうが、それは何なのかは良く分からない。水酸化ナトリウムか、塩化ナトリウムか、そんなところだろう。そして、水を掛けると溶けてして、電池になるというものと思う。
これはいわゆるボルタ電池ってやつだ。今の乾電池は、濡れていて使いにくいボルタ電池を改良し、日本人が開発したものと聞いたことがあるが、ボルタ電池が今でも気象観測に使われているという事実は知らなかった。
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