液体窒素に最も深く浸かっていた先端の部分ほど、カチンコチンに凍っているように見える。写真を撮っている時間だけで霜が付いてしまい、もう真っ白である(実は露出オーバ気味)。一口囓ってみると...見た目に反して意外と柔らかく、歯が折れるような堅さではない。 おおー これは、けっこう美味しい。「夏はやっぱりスイカバー」とかいう、すいか風味のアイスキャンデがあったと思うけれど、あの如何にもって感じの合成すいか風味とは異なり、自然な香りと自然な甘さが魅力だ。口溶けが良く、口内の温度や咀嚼の圧力よって解凍するに従い、しゃきしゃきとしたすいかの歯ごたえが復帰する。何もかもが歪んで見えるような真夏の暑い日は、深冷すいかに限るよ! |
写真左側が凍らす前の皮を剥いた伊予柑、写真右側が液体窒素シロップにより変わり果てた姿になってしまった伊予柑である。あの艶々とした実が、このような光沢のない、淡い黄色になってしまうのだ。しかもこの状態では、僅かな振動だけでの伊予柑の粒がバラバラになってしまうため、取り扱いに際しては物理的な衝撃に対して細心の注意を要する食品だ。 食べて見ると...堅い。でも、ここで引いては男が廃る。強引にゴリゴリと食べてみるのだ。酸味ばかりが表立ち、みかんらしい風味は二の次という感じである。ゴリゴリとした食感に、酸っぱくて風味が不自然なものといえば、そうあれだ。こりゃ、ハイシーレモンを彷彿とさせてくれるお味。 |
「バナナで釘が打てる」という噂のとおり、 こんなの、ダイアモンドの歯が無いと食えません。 バナナは、液体窒素で凍らせても見た目の変化は殆どない。が、ほかの果物は食えたのにこれだけは堅すぎて食えない。切って食べようとしたけれど、包丁なんて言わずもがな、鋸ですらも刃が立つかどうか怪しい堅さだ。やむを得まい、これは少し溶けてから食う。 まだシャリシャリ感が残る程度に解凍されたバナナは、水分が出てしまってベチャベチャ。これはこれで食欲を無くさせる気色悪さを秘めているが、勇気を出して食べてみると、バナナの味がするベチャベチャ+シャリシャリの物体であった(ていうか、そのまんま)。 突撃実験室としたことが、写真紛失。お許し頂きたい。 |
フルーツに飽きてきたところで、野菜にも挑戦。ほうれん草のおひたしだ。これまたカチカチに凍っているが、少量なら口に入れて噛んでも大丈夫らしい。早速、口に入れ・・て・・・・ 「第一種警戒体制、全員配置について!」 「シグナル照合…… パターン青、使徒です!!」 「目標は、徐々に融けだしています。まるでシャーベットです。」 「な、なに? 何なのよ、これ!?」 「ダメです、味を確認できません。」 「うっ…… 目標は、強烈な臭気を放出しはじめました!」 「こ、この臭いは、ほうれん草です。間違いありません!」 (※マヤちゃん、ゲロ) 「MAGIは、どう判断しているの?」
そして「もう間に合いません、人類滅亡まであと3分!!」と続けて良いぐらいの不味さ。常温のほうれん草は決して不味くないのに、こればかりは超危険級に分類すべき恐ろしい珍味である。味は無いくせして、卑怯にも後から襲ってくる臭気だけのテイストは、ヒトに備わった味覚処理能力の限界を遙かに超越した罠という以外に、適切な表現が見当たらない。 しかし、書いてから思った。今時、このネタは古すぎやしないかと。 |
液状のジュースとて、万能調味料である液体窒素にかかれば何のその。液体窒素の中にジュースをドバドバと注ぎ、網杓子で掬うだけで、こんなにも素敵なオレンジかき氷のできあがりだ。形状の定まらない液体の中で冷凍されたとあって、形も大きさもてんでばらばら。堅いスチロール樹脂が柔らかい発泡スチロールを形成するように、ジュースそのものはバキバキに凍っているのだが、氷塊にはならない。そのため、これは簡単に食べられる。 凍らせると、一口目は酸味ばかりが舌につくが、一応ジュースの味だ。別に不味いわけではない。けども、酸っぱい。どういうわけか、柑橘系のものを凍らすと酸味が強調されるらしい。 そんなアナーキーなデザートで、食後の一時を彩られては如何だろうか。 |
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豆腐も液体窒素でカチンコチン。常態ではプリプリとした艶を呈する純白の豆腐も、液体窒素で揚げると薄い黄色を帯び、干からびたチーズのような冴えない色に変わる。元が柔らかいからか、冷凍豆腐は非常に脆い。簡単に真っ二つに割れてしまった。脆いから、凍ったままでも食べられる。味は...何てことはない。やはり豆腐の味だ。 豆腐を凍らせると、高野豆腐になるらしい。冬場、紀州高野山の寒中に放置された豆腐が高野豆腐の元祖だと言われる。気温が氷点下に落ちる夜間は豆腐が凍結し、昼になって再び気温が上昇すると、凍った豆腐は溶けて天日干しとなる。この繰り返しによって乾燥させた豆腐は、高野山の禅僧が保存食として用い、その後に精進料理として普及したものが高野豆腐であるそうだ。 どれどれ、やってみようではないか。液体窒素による凍結と解凍を繰り返す都度、確かに水はどんどんと抜けてくる。触った感触でも、水分が抜けたせいか元の豆腐より硬直した感じになり、黄色っぽく変色して高野豆腐らしくなっていく。しかし、予想通り、これだけでは軽石のように乾燥したカラカラの高野豆腐にはならなかった。ある程度まで水分が抜けたところで積極的に乾燥させなければならないのだろうが、そこまではやっていない。 市販の高野豆腐は、推測だがフリーズドライ法(真空凍結乾燥)で作っているのだと思う。まず、元となる食品を急速に凍結させるところまでは、ここで散々やっていることと同じだ。次に、凍らせた食品の雰囲気を真空近くまで減圧する。気圧が下がると水の沸点も下がるため、低い気圧を保ったまま食品を常温に戻せば、水が昇華して乾燥食品が出来上がるわけだ。 |
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炊きたてアツアツのご飯を液体窒素に放り込むと、その温度差によって沸き立って液体窒素が飛び散って危険そのものだ。しかし、そんな些細なことを気にしているようでは、良い料理人にはなれない。 「あわおこし」を連想させるこの塊から崩し取った飯粒を口に入れて咀嚼すると、一言では形容することできない、そしてほかのどんな食品にも例えることのできない非日常の食感が楽しめる。初めこそ、凍ってゴリゴリとした飯粒も、少し噛めばその圧力で解凍され通常の粘性を取り戻すのだ。ゴリゴリからネチネチへと、シームレスな相転移の過程を如実に体感できる実に不思議な食感だ。 一つ一つの飯粒はカチカチに凍っているが、この状態では飯粒同士が互いに粘りで引っ付き合うことも能わない。衝撃を与えると、繊細なガラス細工をぶち壊したかの如く、甲高い音を立てながら儚くボロボロと崩れてゆく。崩壊した冷凍ご飯を茶碗に入れて電子レンジで温めてみると、並の冷やご飯とは比べものにならないほど美味しいのだ。 なるほど、これで日本酸素といった工業ガスのメーカが、冷凍ピラフといった冷凍食品を作っている理由が何となく分かった気がする。冷凍食品は、冷凍の過程が急速なほど美味しく仕上がるのだ。液体窒素は、冷凍食品の製造にも実際に使われているようである。関係ないけど、日本酸素の冷凍チーズケーキは美味くてお勧め。 |